ICSIでなく、普通のIVFは?

 私は、患者さんの事で迷ったとき、どちらが親切か考えています。私が強くICSIを勧めたならconventional(ICSIでない方法で、卵子に精子をふりかける従来のやり方)であまり勝算がないためと思われます。何十万円かかけて受精障害で受精卵ができず、次の日に「残念でした」「妊娠のチャンスは今回全くありません」と私は平気で言えません。
 少なくとも現在の私の方針は、初回ではconventionalとICSIをひとりの患者さんに同時に行っています。受精障害が判明し、conventionalでひとつも受精卵ができなくても、ICSIでちゃんとその回の移植分の受精卵は確保したいと思っていますし、その方が私は親切と思っています。間違っているでしょうか?何十万も払っても全くチャンスがなく、受精障害の検査だけで終わって、納得できるのでしょうか?私なら治療ですから怒ります。
 受精障害は意外に多いと思います(約2割の方にみられます)。特に精子の数もちゃんとあるのに、人工授精で妊娠できなかった人々に多くみられます。「今回は受精卵ができませんでした」と患者さんに説明し、がっかりした顔を見るのは、私には耐えられません。できる限りのことをするという事で、今は初回の人に対しては両方で対処し、conventionalのみは原則として行っておりません。受精障害がなく、conventional希望ならいつでもお受けします。その方がICSIをやるよりもずっと楽ですから...。
 名大時代は、One day old ICSIといって受精障害のわかった採卵翌日に、1日遅れのICSIをしていた事もあります。これは何年も前に中部不妊学会で発表しましたが、受精率は変わりませんが、妊娠率は3分の1に落ちます。1日のずれで着床率は大きく変化します。しかし、当時はやってあげた方が親切だと思っていたので、行っていました。でも、現在のように両方行うほうが妊娠率も確保し、しかも受精障害もわかり、私にはより親切な方法と思えます。私はそもそも何回も体外受精を行うべきではないと思っています。
 その都度ベストでありたいと思っています。「1回入魂」です。受精しなかったらまた次の回でというのは、ある意味無責任だと思います。誰も無駄にお金や時間を使いたくありません。妊娠のチャンスをみすみすなくす事もないと思います。結果がでない治療はやがて消え行く治療法です。でも、最近はインターネットや雑誌でにわか勉強し、洗脳された患者さんたちに真のエビデンスを伝え、説得するのに少し疲れたところはあります。30分もかかって説得するより「本人がそう信じているのなら、それでよいではないか」という気にもなってきました。ベストな治療でなくても患者選択を第一とすべきか時々悩んでいます。
 何年も不妊治療を行っている間にだんだん独善的で、傲慢になってきたかもしれません。反省します。

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