デュフアストンは黄体ホルモンですが、体温を上げない黄体ホルモンです。もちろん黄体ホルモンの働きはあります。内因性(自分の体から出ている)のホルモンを補っていますので、黄体補充は十分と思います。
 自分が出す内因性のホルモン(黄体が作る黄体ホルモン)が少なければ体温の上がりは悪いかもしれませんが、基礎体温は主役ではなく、脇役ですので過剰に意識しないほうがよいと思います。心配なら血中ホルモンを測ってみましょう。薬を飲んでいれば問題ありません。20年前なら真剣に「基礎体温が...」と言っていました。基礎体温はほとんど20年前に終わっていると考えていただいたほうがよいと思います。
 基礎体温は、今の不妊症治療ではほとんど登場しません。基礎体温表はあくまで参考で、健康手帳くらいの価値と思って下さい。

 平均の基礎体温は36.7度±0.4度。すなわち36.3度から37.1度と言われていますが、人により違います。私の印象では、もっと低い人が多いと思います。不妊症の方の多くは冷え性で低い方が多いのではないかと思っています。妊娠初期から妊娠中期にかけて、だんだん基礎体温は下がってきます。
 医学において「必ず」ということはありません。20年前なら基礎体温しか目安がなかったので、基礎体温をつけなさいと言って厳しく指導していた時代もありました。その後、体外受精も経腔超音波もでき顕微授精もできるようになり、ホルモン検査もすぐに測れるようになりました。ここ10年以上専門誌で基礎体温の論文を見たことがありません、不妊症はめまぐるしく進歩し、産婦人科の中で、もっとも急激に変化してきました。
 産婦人科の先生でも、10年20年まったく不妊治療を変えていない先生もみえますので、基礎体温にこだわる先生はいると思います。もともと基礎体温は机上の空論のようなものです。

 基礎体温表は不妊治療の基本でした。20年位前は不妊治療はまず基礎体温のつけ方から始まりました。しかし、不妊治療は大きく変わり、治療法も全く変わりました。
 1978年にIVF(体外受精)が始まり、1992年にICSI(顕微授精)が始まりました。
それまで妊娠できないと言われてきた人々が妊娠可能になりました。それに伴い直接、卵胞・卵子・受精卵を見ることができるようになり、不妊症治療の考え方が大きく変わってきました。私に言わせれば、基礎体温表を見ながら「排卵していますね」「ここで排卵です」と言っているのは古典的不妊症学だと思います。
 基礎体温というのは、黄体ホルモンの違いで微妙に変化する体温を捉える、いわば机上の理論体温です。皆様が口の中で測っているのは、安静時口腔内体温です。これは夜中の行動(眠りの深さ・トイレ・布団をかぶっていた・□をあいていた・鼻がつまっていた等々)で当然変化します。部屋の冷暖房でも、もちろん変化します、したがって、そんな曖昧なものに全力を注いでもしょうがない、と私は考えています。ましてや体温は毎日上がったり下がったりします。下がるたびに排卵かと思わなければなりません。そのため、多く の人にとっては排卵の予知には利用できません。後で見てこの辺だったという事が言えるだけです。経腔超音波がでてきたのが15~20年位前ですが、"実際の排卵と体温上昇は、3日位ずれがある事もよくあることだ"という学会発表も当時はされていました。排卵がうまくいかない(LUF:黄体化非破裂卵胞)ことはよくありますが、体温はちゃんと二相性になります。
 要は赤ちゃんまでいける元気な受精卵ができた時に妊娠できるわけです。普通に夫婦生活があり、排卵期1週間に2~3回性交があれば卵管内にはいつも生きた精子がいるはずで、大きくタイミングをはずしている人は少ないと思います。2年以上避妊なしで妊娠していなければ、タイミングがあっていないのではなく、それ以外の何かがうまくいっていないから、それが原因で妊娠しないと考えた方がよいと思います。
 LUF、ピックアップ障害(卵管へうまく卵が行けない)、受精障害(精子と卵子が出会っても受精できない)、受精卵自体が悪い場合、着床障害(うまく子宮に着床できない)など、いろいろ原因が考えられますが、その多くは体外からはわかりません(一部は体外受精で確かめられます)、ですから、治療法を変えていって、その結果で判断するステップアップ治療が、不妊症の治療の基本になります。したがって妊娠しにくい方は、タイミングでゆっくり時間をつぶしていてはいけません。タイミングでは妊娠できない、あるいは非常に確率が低いと認識した方がいいと思います。
 古典的な基礎体温に縛られるのはいいですが、ふた昔前の医学でストレスにならないように注意して下さい、不妊治療は、ここ20年最も進歩した医学だと私は思います。今でもすごい勢いで進歩を続けています。何が重要か、何か大切でないかを見極めることも大切だと思います。 



               
               
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